与謝野晶子とその健康





狭心症と運動1 (与謝野晶子)

与謝野晶子は、歌人。明治11年12月7日、大阪府堺(さかい)市に菓子の老舗(しにせ)駿河屋(するがや)の三女として生まれました。日露戦争従軍中の弟を思う長詩「君死にたまふことなかれ」(1904)は、その思想的主題をめぐる論争を巻き起こして反響をよんだことで有名ですね。

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彼女は、昭和9年の正月、那須に滞在していたときに狭心症の発作を起こし、重態になっています。このときに宿泊していた宿については下記の資料に記載があります。
『資料 与謝野晶子と旅』(沖 良機/著 武蔵野書房 1996)
 また、このときに詠んだ歌は次の2首です。
「いと寒し崑侖山に降る如し病めば我がある那須野の雪も
     『定本与謝野晶子全集 第7巻』 歌集7「いぬあぢさい」所収 (講談社 1981)
「むらさきに春の風吹く歌舞伎幕うしと思ひぬ君が名の皺
    『定本与謝野晶子全集 第2巻』 歌集2 「佐保姫」所収 (講談社 1980)

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狭心症とは、発作的に胸の痛みや圧迫感などの症状を起こす病気です。 発作の起こり方、原因などにより分類されます。一般的には、「労作(ろうさ)(性(せい))狭心症」か「安静(あんせい)狭心症」、「器質型(きしつがた)(血管の強い狭窄(きょうさく)によって起こる)狭心症」か「異型(いけい)狭心症」、「安定(あんてい)狭心症」か「不安定(ふあんてい)狭心症」のように分けられます。血管内腔が狭くなることにより、心筋に十分な血流・酸素が送り込めない時に胸の痛みが起こります。血管狭窄の原因の大多数は、糖尿病、脂質異常症(高脂血症)、高血圧などに引き続いて起こる動脈硬化(どうみゃくこうか)です。そのほか、血管けいれんも血管狭窄の原因となります。

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与謝野晶子の狭心症を、医学的に考えてみましょう


狭心症に気づいたら、どうしたらと考えてみて、与謝野晶子に当てはめてみましょう

@ 自分自身で狭心症の症状を自覚したらどうするのがいいですか?

狭心症を思わせる症状を自覚した場合は、なるべく早く専門医の診察を受けことが大切です。今の医学でしたら、投薬や心臓カテーテルで十分に体操できるのです。それどころか、狭心症は救急処置を要することはまれでなのですが、心筋梗塞の前ぶれである場合が少なくない、ここがポイントです。
また、診断が決まるまで症状をおこすような運動は避け、旅行、スポーツなど日常生活の範囲を越える行動も慎むべきです。ランニングがすきなら、ぜひ心臓の確認をして、そしてスポーツを再開したらいいとおもいます。自分だけの判断による処置は禁物です。なお、症状が頻繁におこったり、長く続いたりするときは、すぐに入院が必要です。

A 狭心症と診断されたらどうする?

前述の発作を予防する治療を行うとともに、狭心症のおもな原因である冠状動脈の硬化の進展を防ぐため、日常生活に注意していきましょう。いいかえれば、冠状動脈硬化症、発生の危険因子を除くことが大切なのです。具体的には
(1)喫煙はただちに中止
(2)高血圧、高脂血症(コレステロール、中性脂肪)、糖尿病、痛風のある人は、食塩、脂肪分、糖分、肉食、アルコールの摂取をみなおすことが大切です
(3)肥満している人は食事の是正と適度の運動に心がけ、できるだけ標準体重に近づくようにすることが大切
(4)適度の運動は精神的ストレスを減少し、冠状動脈の自然のバイパスを増す効果もあるのでよいですね

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そこで、与謝野晶子を考えてみましょう
(1) 煙草はたくさん吸っていたとおもいます。
明治44年(1911)9月、日本初の婦人文芸雑誌『青踏』を創刊した平塚らいてうのために、与謝野晶子は「山の動く日来る」の一節で始まる詩『そぞろごと』を寄せています。晶子の詩はらいてうを感激させました。特に「煙草」をモチーフにした部分に惹き付けられたとされていわれます。そのぐらい煙草好きの与謝野晶子ですから、狭心症の原因となったこととおもいます。

(2)食事は、与謝野晶子は和菓子屋のうまれ。いまでいうスイーツ大好き少女。夫になった鉄幹の実家は寺であり、「一汁一菜」が基本の質素な食生活を良しとする家庭だったので、もめています。「こんなぜいたくは許せません」と鉄幹はいうために、晶子はのちに「そのときは悲しくて、情けなくて、里に逃げ帰ろうかと思ったほどです」(『どっきり花嫁の記』与謝野道子著)。おそらく、コレステロールのたまりやすい食生活は想像できます。

(3)与謝野晶子の体型をみて、あきらかに肥満であったことがわかります。生来が食道楽の晶子、ずっとおとなしくしていられるわけがない。子どもの頃培われた味覚は歳とともに蘇り、どんどん肥満になります。家庭でもしだいに一汁一菜の習慣はくずれ、豊富なおかずで食事を楽しむようになったという。それは、鉄幹ではなく晶子が家計を支えるようになった過程と重なるのかもしれない。生涯12人もの子どもを授かり、育てたたくましい母でもあった晶子は、育ち盛りのこどもに負けないぐらい食事していたでしょう。

(4)愛情が深く、ストレスのはけ口がスポーツではないという決定的なポイントが狭心症を悪化させています。「つらかりし高師の浜の松原の暁月夜忘らるべしや」(あなたに愛され歓喜にむせび泣いたこの旅館に来ると朝方まで愛しあったことを思い出します)という大恋愛の歌をのこすほどの彼女、当時としては先進的な恋愛優先の女性です。しかし、夫の鉄幹は、出産まもない妻「林滝野」と別居中で不倫のような関係で晶子と同棲生活に入ったようなひとです。この頃の歌に「前髪の乱れし額をまかせたるその夜の御胸あゝ熱かりし」(今夜はあなたが夢中で胸を吸うので私も狂人のように髪を乱して燃えてしまいました)と言う句もあるほどです。その後の彼の人生は、「文壇照魔鏡」(作者未詳・明治34年刊)誹謗された本がでています。それは、前妻「浅田某子(信子)」との強引な結婚、妻の「滝野」をたぶらかして持参金を使いはたす、暴力、無垢の少女を辱める、高官の妻と姦通する、。強姦した処女は国内外で80人以上など、鉄幹のあることないことを辛らつに批判しものです。妻、与謝野晶子のストレスは尋常ではなかったとおもいます。実際、この『滝野』が鉄幹の子を産んだところから、晶子のストレスは生涯のものになっていきます。

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運動は狭心症のあとでも重要
最近までは心臓の悪い人に運動は良くないと考えられてきましたが、私ははむしろ心臓の悪い人に運動がいかに大事であるかということは、近年注目されています。
運動療法というのはいろいろな病気の場合に治療法の一つとして取り上げられています。まず全身的な病気では高血圧、糖尿病、コレステロールの高い人、肥満などです。外科的な運動療法では整形外科などのリハビリがあり、また脳神経の病気や、婦人科の病気にも〈運動〉は治療法の一つとして幅広く取り上げられています。
さて、心臓病では、虚血性心疾患つまり狭心症とか心筋梗塞の人、また弁膜症や先天性心筋症など、それから呼吸器では喘息、また腎臓の病気などがあります。

虚血性心臓病は、与謝野晶子の時代から急速に研究すすむ
虚血性心臓病というものをもう一度考えてみますと、19世紀の初め頃から考えられた、これは実は意外と新しい病気です。例えば階段を駆け足で上ったりすると胸がきゅっと締めつけられるような症状、労作性狭心症といいます。1912年、心臓の血管が血栓でつまってしまうということが〈心筋梗塞〉として発表されました。与謝野晶子の時代がちょうどここですね。
原因には明らかに運動不足があったということも、このころには広まりました。ストークスという人が「人間がぜいたくを止めて適当な運動をするということが、心臓のためには良い。たとえ心臓の悪い人でも症状を楽にしていく」と言っていることが、アメリカの有名な教科書に出ているのです。

心臓病では運動はしてはいけない?
医学が進歩していろんなことが分かって来ますと、「心臓病では運動はしてはいけない」という考え方がまず起こってきました。運動をすると肺では呼吸が速くなり、心臓では脈拍が増え血圧が高くなって来ます。心臓では酸素(血液)が十分に流れていれば問題は有りませんが、虚血性心臓病のある人は血管が狭くなったり詰まったりする状態にありますから、それだけ負担が増すことになります。だから虚血性心臓病のある人が運動をするのは危険だとする考え方です。

1952年心臓のリハビリテーションの誕生
与謝野晶子が死去したあとの時代に、心臓のリハビリテーションという概念が誕生します。一回落ちた心臓の機能をまた取り返すということがまず第一のリハビリの目的だったのですが、さらに進んで、最近ではリハビリをして、心筋梗塞にもう二度とかからない、いわゆる〈再発予防〉ということに結び付ける理論が浸透してきたのです。

まず歩くこと
いまの循環器内科の基本は、それにはまず歩くということが基本になっています。これが少し早足になると、呼吸が早くなったり少し汗ばむようになります。それより速く走ってしまうとその運動が続けられなくなります。これほどつよいストレスをあたえてはいけません。

適切な運動処方
運動処方をする場合に一番もとになるのは〈心拍数〉です。ランナーの皆さんは、自分が運動をする時にどの位のレベルの心拍数が良いかということを覚えておかれると良いと思いますが、一般的に言いますと大体120前後です。110から120位の運動を続けていれば、これは速歩位に相当するかと思います。心臓病のない、全く健康の人たちにすすめる運動の強さは脈拍で130位のレベルです。130という数字にどういう意味があるかというと、脂肪を燃やして肥満を解消する、また全身への酸素の取込みが効率よくなる、そのレベルが130位ということです。130というのは、少しきついかなといった感じのレベルです。忙しい時でも1日30分か40分は歩く努力をすることが大事です。多ければ多いほど良いわけですが、まず週に3回は歩くことで運動の効率は上向きの状態で維持できます。週に1回となると効率は少し落ちてきます。週に2回で何とか現状を維持できると言われています。

与謝野晶子には、運動処方が必要なのです
ストレスと食生活、肥満から狭心症をおこした与謝野晶子。彼女こそ、運動処方が必要なひとだったのは、もうお分かりだとおもいます。
彼女の場合は、まず減量します。食事を減らします。そして歩くことからはじめるべきなのです。






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