金子みすず と 淋病

金子みすず と 淋病


大震災の直後、毎日TVでコマーシャルにつかわれていた詩、金子みすず ですね。彼女は、1903年(明治36年)4月11日 - 1930年(昭和5年)3月10日)を生きた、大正時代末期から昭和時代初期にかけて活躍した童謡詩人。26歳の若さでこの世を去るまでに512編もの詩を綴ったとされています。自殺をしたというと、しばしば、『金子みすずは、うつ病だったのでは?』という推測をしますが、今回は最新のデータをふまえて、違う見方をしてみます。

今日は一日彼女の作品を読んで、偲んで過ごしてみました。有意義なこころの時間になりました。


上戸彩さんのドラマで、淋病を夫にうつされたみすずが、 母親に「歩いてみせて」と言われていたシーンがあったそうですが、淋菌とはいかなる病気なのでしょうか?
歩けないほどの痛みだったのでは?



==淋菌===

淋菌感染症は、淋菌Neisseria gonorrhoeae (gonococci)の感染による性感染症です。淋菌は弱い菌で、患者の粘膜から離れると数時間で感染性を失い、日光、乾燥や温度の変化、消毒剤で簡単に死滅します。したがって、性交や性交類似行為以外で感染することはまれです。

男性は主として淋菌性尿道炎を呈し、女性は子宮頚管炎を呈します。
男性の尿道に淋菌が感染すると、2 〜9 日の潜伏期を経て通常膿性の分泌物が出現し、排尿時に疼痛を生じます。特徴的な膿で、専門家がみると一目でわかります。しかし最近では、男性の場合でも症状が典型的でなく、粘液性の分泌物であったり、場合によっては無症状に経過することも報告されています。

女性では男性より症状が軽くて自覚されないまま経過することが多く、また、上行性に炎症が波及していくことがあります。米国ではクラミジア感染症とともに、骨盤炎症性疾患、卵管不妊症、子宮外妊娠、慢性骨盤痛の主要な原因と考えられています。

一般には抗生物質が良く効くのですが、近年、淋菌の薬剤耐性化が高度化しており治療剤選択の幅が制限されてきているのが現状です。世界に先駆け、日本において1990年代末に経口第3世代セファロスポリン剤(セフェキシム)耐性淋菌が出現し、2000年以降、国内各地でその分離頻度が高ままりました。その結果、セフェキシムをはじめとする経口セファロスポリン剤は淋菌感染症治療に用いることが推奨されない状況となっています。いままで、淋菌感染症治療に頻用されたフルオロキノロン剤というものは、既に分離株の80%以上が耐性であり、治療効果は期待できなくなっています。日本性感染症学会の治療ガイドラインでは、第3世代セファロスポリン注射剤であるセフトリアキソンあるいはセフォジジム、ならびにスペクチノマイシンの単回投与が推奨されています。

薬剤耐性の問題がありますから、予防対策としては、性的接触時にはコンドームを必ず使用することを教育することが大切になります。また、患者だけでなくその接触者を発見し、早期診断と治療を行うことが重要なのです。


(写真は、MRIです。淋菌のために、骨盤内に慢性的な膿瘍を形成し、慢性骨盤痛になっている女性)


==金子みすずのその後===

夫から淋菌を感染させられた金子みすずは、そのまま治療する費用がなく、悪化していきます。24歳のことです。25歳になると体調がわるくなり、しばしば病状が悪化し、床にふしていることがおおくなります。27歳は、夫の女遊びと病気にて離婚しました。その後彼女は自殺をします。

自殺する夜、みすゞは娘と一緒にお風呂に久しぶりに入ります。それまで、娘と同じ湯船に入ることはできなかったそうです。自分はお湯に
浸からず、娘を湯船に入れてやり、体を洗ってあげた。その晩、みすゞはお風呂の中で、ずっと歌っていたといいます。娘のために、自分の一番好きな童謡を歌い聞かせていたそうです。

「花のたましい」

     ちったお花のたましいは、
     みほとけさまの花ぞのに、
     ひとつのこらずうまれるの。

     だって、お花はやさしくて、
     おてんとさまがよぶときに、
     ぱっとひらいて、ほほえんで、
     ちょうちょにあまいみつをやり、
     人にゃにおいをみなくれて、

     風がおいでとよぶときに、
     やはりすなおについてゆき、

     なきがらさえも、ままごとの
     ごはんになってくれるから。

==医師として想像する 金子みすず の体調===

無治療の淋菌は、骨盤内で繁殖します。かなりの体力は、淋菌につかわれていまいます。そのため、風邪もひきやすく治りにくいでしょう。
みすゞは、湯船に娘と入らなかった、ここがポイントです。淋菌による痛みが激しかったことを意味します。わが子に、おなじ痛みがあったらどうしようとおもう彼女は、自分の体から淋菌が娘にうつることを心配したのです。淋菌は、先にも書いたように、清潔にするとすず死滅します。また、膣から黄色の膿がどんどんでてくるものではありません。おりものは多くはなりますが、長期間膣に菌がいるのではなく、内臓にはいっていきます。膣からは感染するようにはおもえなくなります。知識の普及していない当時だから娘と湯船にはいるはず。でも、無治療の淋菌のこまった症状は、骨盤痛の苦しみです。肌を介してわが子もこの慢性疼痛に苦しんだらつらいとおもうのは、自然とおもいます。

夫との離婚は、こんな推測もできます。慢性疼痛のある女性は、セックスのときの痛みが増す。女遊びの盛んな夫は、彼女の病状をりかいできなかったのでは?それどころか、その彼女にセックスを強要したのでは。そこから、離婚を決意するにいたった身体的理由は想像できるものです。なぜなら、慢性疼痛の認識のない男性との亀裂は、しばしば医師をしていて見るところだからです。





==自殺リスクにあげられる慢性疼痛===

僕は、『自殺したから金子みすずは、うつ病だったのでは?』という推測に反対です。彼女は、慢性疼痛に苦しみ、死を選択したのではないでしょうか?この慢性疼痛の苦しみは、専門医である僕はしばしば出会うものです。彼女たちは、この痛みがなければ、自殺までは考えないとおもいます。自分の作品がみとめられなくても、まずしくても、それでも、娘をだきしめて愛を感じて生きていたでしょう。

2013年にあたらしい研究成果がでました。JAMA Psychiatryオンライン版に5月22日掲載された研究で、米退役軍人局(VA)重篤精神疾患治療・情報・評価センター(SMITREC)のMark Ilgen医師らがおこなったものです。2005年度に米国退役軍人健康庁で治療を受けた480万人強の患者から慢性疼痛のある患者を特定し、3年間追跡したところ、うつ病などの精神障害の有無にかかわらず、慢性疼痛があるうと自殺を試みるリスクの高いことが、新たな研究でわかったのです。Ilgen医師は、「疼痛障害患者を診察する医師は、患者の自殺リスクが高いことを認識する必要がある」と述べています。

==性病は、男性と違い、女性は慢性疼痛を忘れてはいけない===

僕は、女性医学をしていて、おもうことはこのことです。性病のくくりで考えていては、彼女たちの苦しみはわかりません。ともすると、わが子をのこして死すら選択する、それが慢性疼痛なのです。

なお、金子みすずの慢性疼痛の資料はまったく出てきません。遺書もあったそうですが、公開はされません。あくまで、僕の推測ですが、死後は、人に知られたくないほど痛苦しいというのも、資料がない理由かもしれません。

(追伸:今回のは、僕の日常診療からおもうところを彼女に当てはめただけです。ですから、『金子みすず』について詳しい方がおられたらぜひお考えを教えてください。)

ページトップへ

病気のガイド

インフォーメーション

Advertising

TestSite.com MENU