女性泌尿器科専門のクリニック
第3章.
膀胱瘤
4.手術治療 その2
4.5 インテグラル仮説とメッシュをもちいた手術
(この章は難しいので、飛ばして読んでくださって結構です)
メッシュをもちいた手術は、画期的な手術でした。それは、ウルムステン教授とペトロス教授が提唱したインテグラル仮説というものから始まっています。この仮説そのものは、大変難しいのですが、次ぎの絵のようなものです。
(英語なので、わかりにくいのは、ごめんなさい。)
インテグラル仮説では、とても大胆なことに、膣をやや水平に位置させて、そのうえに子宮が乗っているようなイメージ図になっています。これは、実際に患者さんのレントゲン検査をするとこの位置に骨盤内臓器にあるのです。すると、骨盤内の臓器は、前の方向、後ろの方向、上下の方向の3つに、ベクトル(高校の数学にあった力学のことです)が存在するのです。このベクトルの方向に、テープやメッシュをいれて、補助をしていけば、ちょうど良いところに手術が、簡単に、できるようになるのです。高校の数学がこんな時に役立つなんて、おどろきです。
しかし、この仮説は結局、メッシュの商業主義のためのコマーシャル的なところがあって、メッシュの衰退とともに、中心的な位置からはずれてきました。
4.6 奥井式の経験論
骨盤のベクトルを考慮して治療をすれば、簡単になおす方法がわかるというのは、以前から取り組んでいることです。たとえば、姿勢のはなしです。
こんなこと考えていました。姿勢のことです。背中がまがって、姿勢がわるいと、やっぱり体の中の力関係がおかしくなりますね。腰がいたいとか、いろいろ障害が出ればるほど、やっぱり生活も大変です。だから、僕は、すこしでも生活が楽になるようにと、高齢のひとだって、がんばって手術するのです。
4.7 メッシュをもちいた手術(アメリカやイギリスで問題になっている手技)
では、メッシュをもちいた代表的な手術をひとつお見せします。
さて、この絵はTVM手術といいます
(絵:奥井識仁 保健同人社)
これは、TVM手術という名前でさかんに宣伝されていた術式で、メッシュを挿入することで、膀胱をもちあげるようにします。
このTVM手術。こんなに盛んにTVMという言い方で宣伝しているのは、実のところ日本が一番おおいように感じます。もtもとは、フランスのグループがTVMという言い方をはじめたので、おもしろいもので、名前は、国がかわると違うんです。つまり、それだけ確立していないということです。
この手術の何がいけないとかといえば、
組織の圧迫ではないかと考えます。
それはまだ証明されていませんが、組織が圧迫されていると血流が低下して、
組織の成長がわるくなり、そこに、一度でも細菌などがはいれば、おいだせません。
それに、メッシュそのものの材質の拒絶反応もあります
そこで、一般の患者さんや、患者さんの息子さんは、このように考えてください。
性器脱の手術の基本は、膣におちてきた膀胱を、切るとるのではなく、膀胱をもちあげて、よぶんな膣の粘膜を縫縮する手術である。
そして、それでは改善できないほど、膣や膀胱のまわりの筋肉がよわっている人には、人工のメッシュをもちいてサポートする。そのサポートの方向は、骨盤の力がかかる方向。その理論が、インテグラル仮説で、最近わかったばかり。そのため、まだまだ、これからどうなるかわからない。でも、おすすめの一つには違いない。十分考慮の価値がある!!
メッシュは当初は、補強材でした
それがいつのまにか、つりあげる柱のようなものにかわっていきました。
アメリカの雑誌などでは、このような形の挿入をするとイメージ絵がでてます。
ジョンソン&ジョンソン社のメッシュが唯一、日本で医療認可をうけていましたが、販売中止になりました。アメリカでは、ジョンソン&ジョンソン社が、挿入するメッシュをあらかじめ形をつくって販売しています。それが、プロリフトという商品です。その商品の案内書には、このようなイラストがありました。
膀胱瘤に対して、膀胱瘤をもちあげるように挿入したというイメージ絵です
直腸瘤にたいして、直腸をささえるようにメッシュを挿入したというイメージ絵です
人工メッシュをもちいた手術の注意点
こちらの雑誌は、2009年の国際学会でのワークショップで、人工メッシュの問題点が指摘されました。読んでみておもうのは、いままで懸念されてきたとおり、人工メッシュが術後に露出したり、感染したりすることです。 私の個人的な意見からいえば、先ほどのジョンソン&ジョンソン社のプロリフトもそうなのですが、日本人にはいささか大きすぎます。そのため、メッシュが体内でダマ状になり、そこがよわいようにおもいます。やはり使うなら、最小の量だけに、限定をするべきだとおもいます。 |
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4. 8 TVM手術とTSF手術の違い
最近、注目されるのは、このメッシュをおおきくいれるTVM手術だけではありません。TSF手術といって、一部に最小限に挿入して、性器脱をなおそうという試みもでています。とりあえず、尿失禁にたいして尿道をもちあげるという小さな挿入からこの手術がはじまりました。このTVMとTSF。2つの違いは、明白です。TVMは、骨盤内臓器を、面でささえます。対して、TSFは、点でささえるのです。
で、ぜひとも、TSFとお勧めしているわけではありません。データが十分であませんでした。
この手術でこまるのは、箸のアンカーです
この部分が感染して、摘出の依頼をずいぶんうけてきました。
だから、この手術は、危険があるとおもっていましたら、
2019年に米国から勧告がでました。
それで、いっきに、この手術はされなくなりました
これは、TSF手術の一つで、AMS社がだしているものです。メッシュの両端がアンカーになっていて、骨盤の中に取り付けることができます。
こちらは、ジョンソン&ジョンソン社がだしているものです。
これらの手術をのせているのは、
この手術をうけたひとが、トラブルに当院におこしになることがおおいからです
4. 9 骨盤臓器脱などの女性泌尿器科の手術は、日帰りがいい!
日帰り手術ときくと、おどろくかもしれません。でも、実は、日帰り手術はアメリカでは一般的なのです。アメリカでは、1泊だけ入院を、1day手術とよび、その日のうちに帰宅するのをsame
day手術とよびます。まさに、骨盤臓器脱の手術は、same day手術です。
では、なぜ、こんなことを、おなはしするかといえば、その日のうちに帰宅できるような手術は、大変高度な技術が必要です。この病気は、見た目ではありません。その人のうごきです。生活のなかで、負担のないかたちに、仕上げる必要があります。すると、それは、手術直後にもうあるきださないと、わからなのです。
このグラフは、私たちのグループで、奥井医師が個人で執刀した手術の件数です。すべて、骨盤臓器脱です。グラフの見方は、
青は、骨盤臓器脱の手術件数です。
赤は、手術がおわったあと、入院することになった人です。患者さんが希望した入院もありますし、医師からすすめた場合もあります。
横軸は、2003年にハーバードから帰国しましたので、それ以来の年がかいてあります。
その後、システムを大幅にみなおして、2016からは年間1000件ペースで手術をしています。
ここで、注目してほしいのは、
手術件数が、たくさんあり、手術の技術がすごくうまくなってきたら、ほとんど入院していないという事実です。件数がおおいと、医療施設そのものが、ノウハウになれていきます。
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でも、それでも万にひとつのことがあったら、どうするか?
これは重要です。
私たちは、このように解決をつけています
1) 家が横須賀にあるひとや、横須賀のホテルに滞在できる人は、要請に応じて往診する
2) 手術において不測の事態が起きた場合は、入院できる施設連携をとる
2は、2010年から軌道にのっています。クリニックから自転車で10分の聖ヨゼフ病院の往診をすることをしています。その関係で、手術に関係なく入院が必要な人は、術後入院できます。ただし、元気な人は入院はできません。クリニックははじまって、1人だけ、このシステムで入院しました。それは、『手術そのものは、大変良好におわったのですが、下肢静脈瘤があり、そのために、血圧が落ち着かないために、入院』だったのです。
このように、いろいろなケースに対応できます。
一方、考え方をかえると、入院は危険もあります。このあと、80歳以上の性器脱のホームページを立ち上げる予定ですが、そのような方では、入院することは、そのまません妄をおこすことがあるのです。ですから、入院せずに、安定して、自宅にもどれば、認知症にならずにすみます。だかrこそ、日帰りで手術できる技術を、みがく意義が高いです。
4. 10 よこすか女性泌尿器科・泌尿器科クリニックでは、メッシュ手術の方針は?
はい、しません
自分ながらおもうのは、常にアメリカの師匠ならどうしたろうと思い、そして、その人の筋肉の量や生活を把握して、すすめてきました。それがよかったのだとおもいます。僕が、このひとはメッシュが必要なぐらい筋力がよわいとおもうと、やっぱり再発してきました。だから、そんな人にかぎりメッシュをいれるということをしたのです。これからも方針は、おなじです。僕のところへきたら、ヨガだの、ピラティスだの、ジキョウジュツだの、水中ウオーキングだの、いろいろせっつかれてするはめになります。そうして、からだ全体で元気になってほしいです。
(ヨガのプリント:自分でモデルになって、配ります。術前術後にもヨガを頑張っていただきます。体全体を強くして、手術の効果をはかるのです。)
なお、よこすか女性泌尿器科・泌尿器科クリニックでも、TVMは日帰りです。これは、麻酔方法に工夫をしました。高齢者でもできる麻酔がうまくできております。ただし、クリニックから家まで乗継なしが基本です。電車乗り継ぎのあるひとは、クリニックのそばのホテルにとまってください。なにかあれば、応診もしますので、安心してください。
費用は、国民健康保険がつかえる場合がほとんどです。
2010年からは、診療報酬の改定もあり、さらに、適応範囲がすすみます。
私が、一番気に入ってりるのは、膣を全体的に縫い直して、小6の女の子サイズにしてあげること。そして、そのとき、補充的にも人工メッシュをもちいません。
女性の女性器の変化にヒントがあるからです。私が手術の修行をしたハーバード大学ブリガム&ウイメンズ病院には、きれいな女性の像があります。
いつもみとれながら、廊下をあるいていました。
さて、かんがえてみましょう。女性器の形ややくわりです。まず、小学校6年生ぐらいの女の子は、膣はソフトに小さく、でも弾力性があります。処女膜があるので、上下にしまっています。セックスは必要ありませんので、体をささえる役割ですね。
そして、成熟した女性になると、セックスをすることができ、妊娠でき、出産をsます。出産をしたときに、赤ちゃんがお母さんの中からでてこようとして、膣のまわりの靭帯が損傷します。中には治る靭帯もあるけど、そのままきれてしまうものもあります。こうして、2番目の出産からは、すごくラクにスムーズにでてきます。
そして、最後が、閉経して、セックスをする必要のなくなった年齢です。膣は女性ホルモンの低下にあわせて、あだやかに小さくなります。このとき、あまりに極端に膣が小さくなり、表面の委縮のために痛みがあるのが、委縮性膣炎です。逆に、小さくなることもなく、筋肉の弛緩がめだち、内臓がおちrのが、膀胱瘤や子宮脱や直腸瘤なのです。
ですから、もういちど、小学校6年生の女の子の形をめざして、縫いあげます。このとき、補強のサブ的な意味でメッシュをつかったり、仙棘靭帯固定とか、あらゆる技をつかうのです。
簡単な道具を開発すれば、全部よしではありません。一人ひとり応用編です。
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